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東京高等裁判所 昭和51年(行コ)80号 判決 1980年1月31日

静岡県清水市万世町一丁目三番八号

控訴人

長谷川寛一

右訴訟代理人弁護士

大橋昭夫

被控訴人

右代表者

法務大臣

倉石忠雄

右指定代理人

藤村啓

三宅康夫

藤塚清治

梅田義雄

原田耕平

青敏博

右当事者間の所得税及び相続税更正処分等無効確認請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人は、控訴人に対し金八一万六三五〇円及びこれに対する昭和四八年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求め、

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実の主張及び証拠の提出、援用、認否は、控訴人において、当審証人兼高英、川端喜明の各証言及び控訴本人の当審における尋問の結果を援用したほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、それを引用する。

理由

一、原判決理由のうち、一六丁裏一〇行目から一七丁裏六行目までの記載をここに引用する。

二、行政処分が当然無効であるというためには、処分に存する瑕疵が重大であるとともに、その瑕疵の存在が客観的に明白であること、即ち、権限ある国家機関の判断をまつまでもなく、何びとの判断によっても瑕疵の存在につきほぼ同一の結論に到達し得る程度に明白であることを要する。この白性の要件は、行政処分に関する法的安定及び第三者の信頼保護の必要から要求されるものであるから、課税処分のように、一般に課税庁と被課税者との間の法律関係を目的とし、第三者の利害に影響を及ぼすこと少ない行政処分については、必ずしもこれを一義的に適用するのは相当でなく、瑕疵の重大性との関連において考慮すべきである。即ち、当該課税処分の内容上の過誤が課税要件の根幹についてそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情がある場合には、右処分は、瑕疵の明白性の有無を論ずるまでもなく、その著しく重大な瑕疵の故に無効と解すべきである。しかし、このような例外的な場合を除いては、課税処分にも原則として前記したところが妥当することはいうまでもない。

三、ところで、本件において控訴人が各課税処分の無効事由として主張するところの要旨は、

1  昭和三七年分所得税の更正(裁決により維持された部分)及び過少申告加算税賦課決定について

(一)  本件処分の基礎となった課税所得金額の認定は、控訴人の期中商品仕入高を推定して適当に増加し売上原価に加算したものであるが、これらは何らの調査に基かない推計課税であること

(二)  右課税所得金額は、控訴人が他人から寄託を受け日冷蒲原工場に保管していた乾海苔を控訴人所有の商品と認定して算出したもので、重大な事実誤認に基くものであること

(三)  右課税所得金額は、前年までの例年の所得金額に比し、著しく過大であること

2  相続税決定及び無申告加算税賦課決定(いずれも裁決により維持された部分)について

(一)  右各処分は、被相続人長谷川三郎が訴外石井宏に対し負担していた求償債務の存在を誤認したこと

(二)  右各処分は、右三郎所有の在庫商品金額を何らの根拠なく著しく過大に認定したこと

(三)  右各処分は、課税庁の担当者が、控訴人に対する所得税の更正が裁決により大幅に取り消されたのを快からず思い、控訴人に対する私怨を晴らす目的で行ったものであること

というにある。

四、控訴人が本件課税処分の無効事由として主張する右1の(二)、2の(一)及び(二)は、いずれも課税標準算定の基礎をなす事実について課税庁の行った認定を争うに過ぎないものであるから、仮りにそのような誤認があったとしても、それに基く本件課税処分に、課税要件の根幹についての過誤があり徴税行政の安定円滑の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当であると認められるような例外的な事情があるとは、到底考えられないのであって、控訴人主張の瑕疵により本件課税処分が当然無効であるとするためには、前記原則に従ってこれらの瑕疵の存在が客観的に明白であることを要するところ、本件課税処分において、右瑕疵の存在が、権限ある国家機関の判断をまつまでもなく、何びとにも明らかであるといえないことは、控訴人主張の事実の性質及び本件弁論の全趣旨に鑑み明らかであるから、右無効事由の主張は既にこの点において採用できない。

次に、控訴人主張の無効事由1の(一)及び(三)については、その趣旨とするところが必ずしも明らかでなく、それ自体独立の無効事由とするのかどうか不明であるが、その主張が、本件処分が控訴人の営業の実体に基かないで何らかの意図に基づき恣意的に行なわれたとする趣旨であるとするならば、かかる事実を推認せしめるに足る証拠は何もないから、この主張は理由がない(なお、これらの無効事由が、課税庁の行った課税標準推計の結果の誤りをいう趣旨であるならば、かかる事由が無効事由に当たらないこと前段説示のとおりである。)。

また、無効事由2の(三)の主張については、そのような事実を認めるに足る何らの証拠もないことは、原判決が理由中に示すとおりであるから、その記載(原判決三四丁裏八行目から三九丁表一行目まで)をここに引用する。

五、以上のとおりであるから、本件各課税処分が当然無効であることを前提とする控訴人の請求は失当であり、これを棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 三井哲夫 裁判官横山長は転任のため署名押印できない。裁判長裁判官 杉山克彦)

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